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行政書士試験 過去問解説 令和5年度 問題4

問題 4  

国務請求権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1  憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。
2  立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。
3  憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。
4  憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。
5  憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨勢をふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。


正解 3


(解説)


そもそも「国務請求権」とは何か、ということですが、国務請求権とは、国民が自己のために国家に作為を求める権利のことです。国務請求権に分類されるのは、例えば国家賠償請求権(憲法§17)、裁判を受ける権利(憲法§32)、刑事補償請求権(憲法§40)です。請願権(憲法§16)は、どちらかというと参政権的な意味合いが強いですが、全くの参政権ではありません。


1は、請願権についてです。憲法16条は、何人も平穏に請願する権利を有し、請願をしたためにいかなる差別的待遇を受けない、とし、請願権を保障しておりますが、請願を受けた機関の義務については憲法には記述がありません。また請願法第5条には官公署に対する請願の受理義務と誠実処理義務は課しておりますが、審理義務や判定義務までは課しておりません。


2は、立法行為に対する国家賠償請求権についてです。基本は最判昭和60年11月21日の在宅投票制度廃止事件において、「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではない」とし、国会議員の立法行為について国家賠償請求権を原則否定しておりますが、最判平成17年9月14日の在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件で、「国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける」とし、一定の条件で立法不作為が認められる場合は国家賠償請求権を認めております。


3は、憲法32条における刑事事件について裁判を受ける権利についてです。この権利は行政の判断だけで被告人を処罰することができないという点と、公平、公正な裁判が行われ、正式な裁判の請求に対して拒絶されないという点があります。自由権というのは「国家の干渉を受けない権利」です。正式な手続によらない逮捕では拘束されないということは、「身体的自由」という側面があります。よって、3は正しい記述です。


4は、少年事件の不処分決定の国家賠償請求権についての決定があります。最決平成3年3月29日の刑事補償及び費用補償請求事件についてした即時抗告棄却決定に対する特別抗告において、「刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」とは、同項及び関係の諸規定から明らかなとおり、刑訴法上の手続における無罪の確定裁判をいうところ、不処分決定は、刑訴法上の手続とは性質を異にする少年審判の手続における決定である上、右決定を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を有しないから、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」には当たらないと解すべきであり」とし不処分決定は無罪の裁判とは性質が異なり、結果「無罪の裁判≠不処分決定」であるとしました。


5は、裁判は公開の法廷の下、対審、判決をする旨を憲法第82条に定められております。ここでいう「裁判」とは、「純然たる訴訟事件」のことを言います。このような裁判を国民の目にさらすことによって、権利義務等の判断が公正になされるように定められたものです。判例は、「当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判」と表現しております。そして、このような裁判が、「公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法八二条に違反すると共に、同三二条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない。」(最大決昭和35年7月6日)として、純然たる訴訟事件が公開の対審、判決によらない処理をされるのは憲法違反であると位置づけております。ちなみに、少年審判等の「審判」は純然たる訴訟事件には当たらないとし、公開によらなくてもできます。民事訴訟においては、公開の法廷における対審及び判決によって行なわれなければならないものではない旨の最高裁の判決もありますので、混同しないように注意です。