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行政書士試験 過去問解説 令和5年度 問題7

問題7

財政に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 国会が議決した予算の公布は、法律、政令、条約などの公布と同様に、憲法上、天皇の国事行為とされている。
2 国会による予算の修正をめぐっては、内閣の予算提出権を侵すので予算を増額する修正は許されないとする見解もあるが、現行法には、予算の増額修正を予想した規定が置かれている。
3 予算が成立したにもかかわらず、予算が予定する支出の根拠となる法律が制定されていないような場合、法律が可決されるまでの間、内閣は暫定的に予算を執行することができる。
4 皇室の費用はすべて、予算に計上して国会の議決を経なければならないが、皇室が財産を譲り受けたり、賜与したりするような場合には、国会の議決に基く必要はない。
5 国の収入支出の決算は、内閣が、毎年そのすべてについて国会の承認の議決を得たうえで、会計検査院に提出し、その審査を受けなければならない。


正解 2


(解説)


1 天皇の国事行為は憲法第7条に規定されていますが、予算の公布は天皇の国事行為とはされておりません。


2 正しい記述です。予算の増額修正を想定した規定は、国会法に置かれております。
国会法第57条 「議案につき議院の会議で修正の動議を議題とするには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、法律案に対する修正の動議で、予算の増額を伴うもの又は予算を伴うこととなるものについては、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。
国会法第57条の3 「各議院又は各議院の委員会は、予算総額の増額修正、委員会の提出若しくは議員の発議にかかる予算を伴う法律案又は法律案に対する修正で、予算の増額を伴うもの若しくは予算を伴うこととなるものについては、内閣に対して、意見を述べる機会を与えなければならない。
いずれも内閣の予算提出権に配慮し、ハードルが高くなっているものの、増額修正そのものは可能な建付けとなっております。


3 記述のことを「予算と法律の不一致」といいます。このような場合、内閣は法律案を提出して、法律の成立を待つしかありません。暫定的に予算を執行することはできません。


4 憲法第88条は、「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。」と規定しております。「すべて」と規定している以上、全ての皇室財産の処分は国会の議決が必要です。


5 憲法第90条は、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と規定されており、「国会の議決→会計検査院に提出」ではなく、「会計検査院に提出→検査報告とともに国会に提出」です。順序が逆です。

行政書士試験 過去問解説 令和5年度 問題5

問題5

罷免・解職に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 衆議院比例代表選出議員または参議院比例代表選出議員について、名簿を届け出た政党から、除名、離党その他の事由により当該議員が政党に所属する者でなくなった旨の届出がなされた場合、当該議員は当選を失う。
2 議員の資格争訟の裁判は、国権の最高機関である国会に認められた権能であるから、両院から選出された国会議員による裁判の結果、いずれかの議院の議員が議席を失った場合には、議席喪失の当否について司法審査は及ばない。
3 閣議による内閣の意思決定は、慣例上全員一致によるものとされてきたので、これを前提にすれば、衆議院の解散の決定にあたり反対する大臣がいるような場合には、当該大臣を罷免して内閣としての意思決定を行うことになる。
4 最高裁判所の裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民の審査に付されるが、その後、最高裁判所の長官に任命された場合は、任命後最初の衆議院議員総選挙の際に、長官として改めて国民の審査に付される。
5 裁判官は、公の弾劾によらなければ罷免されず、また、著しい非行があった裁判官を懲戒免職するためには、最高裁判所裁判官会議の全員一致の議決が必要である。


正解 3


(解説)


1 比例代表議員については、国会法第109条の2において、議員となった日以後において、当該議員が衆(参)議院名簿登載者であった衆議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団体で、当該議員が選出された選挙における衆(参)議院名簿届出政党等であるものに所属する者となったときは、退職者となる、と定められております。つまり、A党の比例名簿に載っていた人が同じ選挙で名簿を届けていたB党に当選した後に乗り換えた場合は、議員ではなくなる、ということです。A党から除名されてA党の人間ではなくなったとしても、他党に乗り換えなければ議員を辞める必要はありません。


2 議員の資格争訟については、議員の自律権を尊重するため、除名を含めて司法審査は及びません。ただし、これは国会議員に限ったことであって、地方議員については、令和2年11月25日の最高裁の判決により、除名はもとより、出席停止についても司法審査が及ぶとされたことに注意が必要です。本問は国会議員に関することなので、この点は正しい記述です。しかし、議員の資格争訟についての裁判は、国会の権能ではなく、議院の権能です。この点が誤りです。


3 正しい記述です。内閣の意思決定が慣例上全員一致とするならば、衆議院の解散に反対する大臣がいたとしたら、内閣総理大臣は国務大臣の任免権があるので、この大臣を罷免した上で内閣総理大臣がこれを兼任して意思決定を行うことになります。ちなみに最近の事例としては、2010年の民主党政権時代に、鳩山首相が普天間基地の移設問題に関する政府方針の署名を拒否した、福島瑞穂国務大臣を罷免した例があります。


4 最高裁判所裁判官の国民審査制度は、最高裁判所の裁判官に任命されたら、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査に付されます。この審査の日からさらに10年を経過した最初の衆議院議員総選挙の時に改めて国民審査に付されます。最高裁判所の長官になったから国民審査に付されるということはありません。


5 裁判官の罷免は公の弾劾によらなければならないですが、弾劾裁判は、国会に設けられた裁判官弾劾裁判所で行われます。この審理は、国会議員が裁判員となって審理を行います。ちなみに懲戒免職は裁判官の懲戒処分としてはできません(戒告または1万円以下の過料のみ)。

行政書士試験 過去問解説 令和5年度 問題4

問題 4  

国務請求権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1  憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。
2  立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。
3  憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。
4  憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。
5  憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨勢をふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。


正解 3


(解説)


そもそも「国務請求権」とは何か、ということですが、国務請求権とは、国民が自己のために国家に作為を求める権利のことです。国務請求権に分類されるのは、例えば国家賠償請求権(憲法§17)、裁判を受ける権利(憲法§32)、刑事補償請求権(憲法§40)です。請願権(憲法§16)は、どちらかというと参政権的な意味合いが強いですが、全くの参政権ではありません。


1は、請願権についてです。憲法16条は、何人も平穏に請願する権利を有し、請願をしたためにいかなる差別的待遇を受けない、とし、請願権を保障しておりますが、請願を受けた機関の義務については憲法には記述がありません。また請願法第5条には官公署に対する請願の受理義務と誠実処理義務は課しておりますが、審理義務や判定義務までは課しておりません。


2は、立法行為に対する国家賠償請求権についてです。基本は最判昭和60年11月21日の在宅投票制度廃止事件において、「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではない」とし、国会議員の立法行為について国家賠償請求権を原則否定しておりますが、最判平成17年9月14日の在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件で、「国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける」とし、一定の条件で立法不作為が認められる場合は国家賠償請求権を認めております。


3は、憲法32条における刑事事件について裁判を受ける権利についてです。この権利は行政の判断だけで被告人を処罰することができないという点と、公平、公正な裁判が行われ、正式な裁判の請求に対して拒絶されないという点があります。自由権というのは「国家の干渉を受けない権利」です。正式な手続によらない逮捕では拘束されないということは、「身体的自由」という側面があります。よって、3は正しい記述です。


4は、少年事件の不処分決定の国家賠償請求権についての決定があります。最決平成3年3月29日の刑事補償及び費用補償請求事件についてした即時抗告棄却決定に対する特別抗告において、「刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」とは、同項及び関係の諸規定から明らかなとおり、刑訴法上の手続における無罪の確定裁判をいうところ、不処分決定は、刑訴法上の手続とは性質を異にする少年審判の手続における決定である上、右決定を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を有しないから、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」には当たらないと解すべきであり」とし不処分決定は無罪の裁判とは性質が異なり、結果「無罪の裁判≠不処分決定」であるとしました。


5は、裁判は公開の法廷の下、対審、判決をする旨を憲法第82条に定められております。ここでいう「裁判」とは、「純然たる訴訟事件」のことを言います。このような裁判を国民の目にさらすことによって、権利義務等の判断が公正になされるように定められたものです。判例は、「当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判」と表現しております。そして、このような裁判が、「公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法八二条に違反すると共に、同三二条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない。」(最大決昭和35年7月6日)として、純然たる訴訟事件が公開の対審、判決によらない処理をされるのは憲法違反であると位置づけております。ちなみに、少年審判等の「審判」は純然たる訴訟事件には当たらないとし、公開によらなくてもできます。民事訴訟においては、公開の法廷における対審及び判決によって行なわれなければならないものではない旨の最高裁の判決もありますので、混同しないように注意です。