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行政書士試験 過去問解説 令和5年度 問題3

問題 3 

基本的人権の間接的、付随的な制約についての最高裁判所の判決に関する次のア~エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。


ア 選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。


イ 芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。


ウ 裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。


エ 刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な措置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。


1  ア・イ
2  ア・ウ
3  ア・エ
4  イ・ウ
5  イ・エ


正解 2


(解説)


それぞれの判例を深く読み込んでいないと難しい問題です。判例の結果だけを覚えるという勉強では正解は導けない問題です。


アは、戸別訪問禁止合憲判決(昭和56年6月15日)です。高裁は、戸別訪問を禁止する公職選挙法の規定は、「戸別訪問禁止規定の合憲性については、その具体的な根拠について今一度検討が加えられて然るべきである」と判示し、必ずしも最高裁判所の各判例に拘束されない立場を明らかにしたところですが、最高裁はこれを否定し、破棄、差戻をしました。
その理由として、「戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になり易く、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もつて選挙の自由と公正を確保することを目的としている」とし、戸別訪問の禁止の目的は意見表明の制約を目的としていないことを明らかにし、この目的は正当であるとしました。
また、「戸別訪問の禁止によつて失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法に禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる」とし、戸別訪問の制約のデメリットは禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎない旨を明言しました。よって、アは正しい記述です。


イは、悪徳の栄え事件(昭和44年10月15日)の判決です。判決は、「出版その他の表現の自由や学問の自由は、民主主義の基礎をなすきわめて重要なものであるが、絶対無制限なものではなく、その濫用が禁ぜられ、公共の福祉の制限の下に立つものであることは、前記当裁判所昭和三二年三月一三日大法廷判決(チャタレー事件)の趣旨とするところである。そして、芸術的・思想的価値のある文書についても、それが猥褻性をもつものである場合には、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、これを処罰の対象とすることが国民生活全体の利益に合致するものと認められるから、これを目して憲法二一条、二三条に違反するものということはできない。」(カッコ内追記)としており、芸術的・思想的価値がある文書でも、猥褻性がある文書については、国民の利益に合致するので直接これを制限することができる、としております。よってイは誤りです。


ウは、寺西判事補分限裁判(平成10年12月1日)の決定です。「裁判官が積極的に政治運動をすることは前記のように裁判官の独立及び中立・公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと右の禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らかである。さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず」としております。よってウは正しい記述です。


エは、よど号事件新聞記事抹消事件(昭和58年6月22日)の判決です。「未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。」とし、「右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。」として、個別具体的であること、障害が生ずる蓋然性があること、制限の程度は、障害発生防止のために必要かつ合理的な範囲内にとどめるべきことという条件が付されており、間接的、付随的ではないとしております。よってエは誤りです。